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お誕生日に看病されるの巻


 体調を崩してしまった、大事な日なのに。

 数日前から気をつけていたつもりだったのにどうしてこんな日に限ってこうなのだろうと
海野 アカリは見慣れた天井を見上げながら一人、ため息を吐いた。
 プレゼントは当日、一緒に…と思っていたから用意していない。
 今からどうにかしようなんて思ったってこんな状態では無理な話だ。

「ハァ…失敗したなぁ」

 こんなことなら事前に何か用意しておけば良かった。と、自分のマヌケさを呪ってみても後の祭り。
 ならせめて、おめでとうの一言でも伝えておかなければと携帯を手に取ってみるけれど
かけるタイミングを逃してしまって中々先に進めない。

 さっきから携帯を開けては閉じ、開けては閉じての繰り返しで、そろそろ壊れるんじゃないかと
本気で心配になった所で、 アカリは「この件は一旦保留しよう」と枕の近くに携帯を放り投げた。

 それにしても。

「暇、かもしれない」

 体は相変わらずだるいけれど、朝からずっとベッドの中では流石に飽きる。
 寝ようと思って目を閉じても今日のことが頭の中をぐるぐる回るし
それならば、と本でも読んで気分を紛らわそうかと手に取って開いてみれば頭痛がするし。

 じゃぁやっぱり…。と思って携帯を手にしてみれば、同じことを繰り返して最後にはため息。 

 一体どうすればいいの。と、自棄気味に掛けていた毛布を一気に頭の上まで引き上げる。
 そして「あーーー!」と意味もなく声を出してみると、毛布の向こうから微かに「カチリ」と何かの音がして
アカリは「はて?」と首を傾げ、窺うようにゆっくりと毛布から顔を出した。

「へぇ、かくれんぼかい?随分と余裕があるみたいだね。安心したよ」
「!?ど、ど、ど、どう」

 どうしてここにいるの!?

 全く予想していなかった人物の登場に激しく動揺して アカリは、心の中で絶叫し
それと同時に掴んでいた毛布を再び頭の上まで引き上げた。

「やれやれ、君は本当にかくれんぼが好きみたいだね。けど残念なことに僕は遊びにきたワケじゃないんだ。
まあ、君が望むんだったら今すぐ毛布を剥いであげてもいいけど」
 
 どうする?見つけて欲しい?

 意地悪な声と共にドアの閉まる音がして、ゆっくりと迫ってくる気配に アカリはぶるっと身体を震わせた。

 どうする?なんて、このままでは絶対にヤバイことは解ってる。
 けれど毛布から顔を出すのもかなり勇気が必要で……どうしよう、どうすればいい?と自問自答を繰り返していると
毛布越しに外側からやんわりと身体を撫でられて、危ないっ!と アカリは半ば放るように毛布を身体から離し
勢いよく上半身を起こした。

「かず……っ!ゴホッ!」
「ああ、病気なんだから無理は良くないよ」
「だ、だれのせいでっ!?」
「僕のせいとでも?」
「いえ、言いません……」
 
 そっちがその気ならこっちも考えがあるよ?と言いたげな瞳で見つめられ
途端に アカリは病気とは違う意味で身体をぶるっと震わせ、慌てて出て行こうとした言葉を引き止める。

 どれだけ体調が悪くても許してはくれないだろう、相手は赤城一雪だ。
 一応これでも病人相手に手加減してくれているのだろうけれど、元々がアレだから
全く加減してくれているようには感じられない。

 思わず無意識に「ハァ~」とため息を吐く。
 と、不機嫌そうな顔でジロリと睨まれてしまった。
 
「何?ひょっとして僕が来たら迷惑だった?これでも心配したんだけどね。待ってたのに連絡来ないし
どうしたんだろうって思ったら学校休んでるって聞いてさ、慌てて来たんだけど」

 嫌がられてるのなら帰るよ。

「まっ、待って!!」

 寂しそうに目を伏せられて、それじゃぁと部屋を出てゆこうとする一雪の制服の裾を咄嗟に掴んで
嫌なんかじゃないよ、と勢いよく頭を振って アカリは何度も同じ言葉を繰り返す。
 そんな彼女の姿に一瞬目を大きく見開き、それからふっと息を漏らすと目を細めて
一雪はゆっくりと アカリの頭に手のひらを乗せた。

「ゴメン、意地悪して」
「ううん、わたしの方こそごめん」

 心配かけたのに態度悪いよね。そう言ってうな垂れる アカリの頭を撫でて、一雪は「大丈夫」と声をかける。
 
 少しだけ拗ねただけだから。
 一雪は心の中で呟いた。

 待っていたのに連絡も無く、オマケに学校を休んでいると他の人に聞かされて不機嫌になっただけなんだ。

「お見舞い、ありがとね。あの…さ、それで誰に聞いたの?」
「ん?」
「わたしが学校休んでること」
「ああ、氷上くんだけど」
「氷上くん?」
「生徒会の用事でね、電話があったんだ。その流れで『そういえば、 海野君が体調を崩して休んでいるのだけど』なんて聞かされてさ
全然知らなかったから焦ったよ」
「うっ……ごめんなさい」

 いや、顔を見られて安心したから気にしなくていい。と再び頭を撫でながら頷いた一雪を アカリは上目遣いで見あげて
やっと安心したのか照れたように「へへっ」笑った。
 
「お誕生日おめでとう。何もできてなくてごめんなさい」
「いいよ、言葉だけでも嬉しいから」

 ありがとう。
 そう言って自分を見下ろす一雪の目を見つめて アカリはふふっとつられて笑う。

 けれど。

 あまりに素直な彼の態度に、何故か不安と疑問を覚えて アカリはハテ、と小さく首を傾げた。
 
 いくら身体が弱っている相手だからって、こんなに素直なのは変だ。
 「何もできなくてごめんなさい」って言ったら、いつもの一雪くんなら「いいよ」って言った後きっと
「別に期待してなかったし」なんて余計な一言がつくはずだもん。
 
 そう思って アカリは窺うように一雪の顔を覗き見る。
 と、その視線に何かを感じたのか、一雪はにやりと口の端を歪めると不安そうな顔の彼女の耳元に顔を寄せてこう囁いた。

「お見舞いのお礼と心配かけたお詫びと誕生日祝い。元気になったらまとめてしてもらうから気にしなくていいよ」

「なっ……!?」

 何を!?と聞きたい気持ちをぐっとこらえて アカリは口を閉じる。
 聞いたらきっと後悔する、何故かそんな気がして。

「早く良くなることを祈ってるよ。心の底から、ね」
 
 楽しみだなあ、と念を押すように囁かれて、 アカリは無意識に全身を震わせた。

 寒気がするし顔がとんでもなく熱い。けれどこれは体調が悪いからではないんだろうなあ。

 ベッドに倒れこみたくなる気持ちを根性で押し止めて アカリは彼を見上げて『にへらっ』と力なく笑った。

 頷いたって拒否したって、どうせ彼の言う通りになってしまうのだから、変に体力使うよりは肯定も否定もせず笑ってたほうがいいよね。
  
 そんな アカリの気持ちを知ってか知らずか一雪は彼女の頭を撫でながらゆっくりと微笑むと
「お大事に」と額にひとつ、くちづけた。


─パタンッ


 それじゃあ、またね。と、笑顔で部屋を出てゆく一雪の背中を見送って
アカリは壊れたようにベッドに崩れ落ちて大きく息を吐きだした。

 こんなに身体にも心にも悪いお見舞いは初めてだよと枕に向かって一人ごちて
とにかく、あの人に対抗できる体力はきちんとつけておかないと、と アカリはゆっくりと起き上がりベッドから抜け出す。

 あの悪魔に打ち勝つに為にとにかく今は腹ごしらえだ。
 
 そう心の中で呟いて、 アカリは気合を入れるようにふんっと鼻を鳴らすと母の待つリビングへ歩きだした。 

 



 



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