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乙女喫茶

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王子様なイタズラ天使

 
「悪戯してくれなきゃ悪戯するぞ?」
「?」
「ハロウィンっていいよね。うん」

 ……へ?
 
 突然おかしな台詞を呟いて、一人頷いている琉夏くんを見上げわたしは「はて?」と首を傾げる。

 悪戯に悪戯って…。まさかそんな、ありえないでしょ?そう思って隣の彼をチラリと横目で盗み見てみれば
前を向いたままニヤニヤしている琉夏くんの姿が目の端っこに見えて
ああ、これは聞き間違えでも何でもなく、ワザとなんだな、ってことに気がついた。 

「ねえ琉夏くん。ハロウィンは『お菓子くれなきゃ悪戯するぞ』だよ?」
「ん?まあね。でもほら、それだと面白くないでしょ」

 いや、面白いとか面白くないとか関係ないと思うんだけど……。
 
 『ハロウィンはヨーロッパを起源とする民族行事で
カトリックの諸聖人の日(万聖節)の前晩(10月31日)に行われる。
諸聖人の日の旧称"All Hallows"のeve(前夜祭)~』

 この前ネットのどこかで読んだハロウィンについての記事を頭の中でなんとなく繰り返してうーんと唸る。
 そっか、琉夏くんにかかれば西洋の大切な儀式もただの『悪戯できる楽しい日』になっちゃうんだ。
 
 別にそれが悪いとは言えないけどさ、だいたい日本人でハロウィンが何なのかってちゃんと分かってる人はあまり多くないと思うし
わたしだってあの記事を読むまでは子供たちが各家を回ってお菓子を貰う日みたいなものだって思ってたもん。

 だから琉夏くんが間違った解釈だとしてもハロウィンを楽しむのはいいと思う。
 わたしだって折角楽しそうにしているのにここで本来ハロウィンが何であるかなんて
事細かに説明するような無粋なことはしたくない。

 (なんだけどね~)

 ただそうなると問題が一つあって、彼が『何かで楽しむ時』は確実に『誰か』がその犠牲になってしまうってこと。
 今年のエイプリールフールなんて琉夏くんがついた嘘でコウくんが振り回されてボロボロになってたし…。

 パッと思いつくだけでも片手を軽く超える無謀さと悪行と暴走の数々と、最後には泣きそうになっていたコウくんの顔を思い出してわたしは
背中を冷たい何かに撫でられたように、ぶるっと体を震わせた。

  ひょっとして、今回の標的はわたしかなぁ。
  ああ、コウくんの気持ち分かりたくないのに分かる気がするよ…。

 予感というより確信に近い感覚に心が挫けかける。
 ああ、でもダメダメ。気持ちだけはしっかりしなきゃ

 そう思って慌てて気合を入れてみたけれど、心の奥から次々と湧いてくる嫌な感じは何処にも行ってくれなくて
 でもなんとかそれを振り払おうと精一杯の笑顔を作って琉夏くんを見上げてみたけれど

「な、なんで選択肢が悪戯するかされるかなのかな?」
「だってオマエにして欲しいし、悪戯。あ、するのも好きだけどね」
「えっ」

 最高の笑顔で悪夢の始まりのような言葉を告げられてわたしは
わたしの中にある小さな希望や努力の全てが粉々に打ち砕かれてゆくのを感じた。

「 美奈子」
「なによぅ」

 こうなったら自棄だと考えることを放棄して、遠くをみつめるわたしの目を
遮るようにねえ?とわたしを見下ろす琉夏くんが映る。

 風にキラキラ光る綺麗な髪をなびかせて、王子様みたいに優しく笑う琉夏くん。
 ああなんて格好よくて素敵なんだろうと素直に思うのに

 それなのに。

 彼の口から紡ぎされた言葉が悪戯して?だなんて…、アナタがそんな特殊な趣味をお持ちだなんて知らなかったよ、わたし。

「……待て。あのさ、言っとくけどオマエ限定だから」  
「えっ!」

 一言も口に出していないのに、突然の鋭い突っ込みと共にジロリと睨まれて
わたしはさっきとはまた別の寒気を感じてぶるっと体を震わせる。

 な、なんで。どうして考えてたことがバレちゃったんだろう?
 ひょっとして琉夏くんって、特殊な趣味と共に特殊能力まで持ってたの?

「俺、 美奈子のことなら顔を見ただけで分かるよ?」
「そ、そうなの!?」
 
 だってオマエのヒーローだからね?なんて言って、格好良いでしょ?と綺麗なウィンクを投げてきた琉夏くんに
なんだか妙に照れてしまってわたしは慌てて下を向く。

 格好いい。うん、確かに格好いい。
 いつもだったら顔、真っ赤になってたと思うよ。
 ううん、顔だけじゃなくてきっと耳も手も足も全身真っ赤になってたんじゃないかな。

 だってさ

 オマエ限定だから。
 オマエのヒーローだからね。

 琉夏くんにそんなことを言われて嬉しくない子はいないもん。
 わたしだってね、嬉しいの。本当、凄く凄く嬉しいんだけど…。

「それでさ、悪戯しちゃう?それともされちゃう?」
「うっ……」

 喜びを噛み締める暇も与えてもらえないまま、俯いたわたしの目線の先に究極の選択を迫りながらじりじり近づいてくる彼の足が見えるから
わたしは捕まらないように少しでも琉夏くんから離れなきゃと、慌てて後ろに一歩足を伸ばした。

 一度でも捕まったら逃げられない。拒否権なんて勿論…

「あの、ちなみにどっちも無し。はアリで…」
「ん、無し」
「やっぱり……」

 覚悟はしていたけれど、はっきりとそう言われるとやっぱり焦るというか困惑するというか。
 このままどちらも選択せずに隙をついて逃げ出す、って手もあるんだろうけど
それをしちゃったら更に凄いことされそうな気もする…というかされちゃうのは明らかで。

 あの日、今のわたしと同じように琉夏くんから究極の選択を迫られたコウくんも
理不尽な要求にキレてそれから、どちらも選ばず力ずくで琉夏くんを引き剥がして逃走したんだけど
そのあと口では説明するのも憚れるような酷い目にあってた。

 って、ハァ…なんでこんな時に余計なこと思い出すかな。

 余計に焦ってしまうから、こんな時にそんなことを思い出しちゃダメだと自分に何度も言い聞かせてみるけれど
でもそうすればする程、頭の中をあの出来事が勝手に頭の中を駆け巡って…

(無理ムリ、コウくんみたいに朝起きたら両生類や爬虫類と添い寝してました。なんて絶対ムリ~!)
 
「 美奈子?」
「え?あっ…わわっ」

 コウくんの身に起きた数々の悲惨な出来事全てを思い出し、身震いしたところで
気がつけばいつの間にかわたしと琉夏くんとの距離が、さっきとは比べ物にならないぐらい縮まっていることに気がついた。
 
 他のこと考えてたでしょ?余裕だね。と意地悪な瞳で笑う琉夏くんが憎らしくて
抵抗するつもりで頬を膨らませ思いっきり口を尖らせてみる。

 けれどどうやらそれは全く逆効果だったようで、益々嬉しそうに目を細めた彼に
タコみたいだ、可愛い。と全く褒め言葉になってないような台詞を吐かれ
同時に両手でガッチリ顔を挟まれて、わたしは全く身動きがとれなくなってしまった。
 
 お互いの鼻がぶつかりそうになるぐらい近づいた琉夏くんと目があって「どっち?」と囁かれる。

 瞳なんかもう近づきすぎてぼんやり見えちゃうし
 琉夏くんが息をする度、吐息がわたしの肌を撫でるみたいにさわさわとあたって鳥肌が立ちそう。

 オマケにこんなに優しい声で意地悪を言われて…

 ああもうなんだこれ、こんな酷い誘惑があってたまるか。って思う

「これじゃぁもう、悪戯されてるのと同じだよ」
「あれ、そう?」
「そうだよ」

 酷く嬉しそうな彼に、悪戯なんて軽く通り越してこれは拷問だと思うんですけど?とじろっと睨んでみれば
何を感じたのか、琉夏くんは一瞬驚いたように目をまん丸にした後、一気に細めてニッコリ微笑んだ。

「それはそれは、光栄です。ジュリエット」
「なんでそうなるの。それにそんな台詞はありませんことよ?ロミオ」
「そうであったかな?」
「そうでございます。って、キャラ変わってるし」 
「…ぷっ」
「…ふふっ」

 打ち合わせしたわけでもないのに、お互いほぼ同時に吹き出して
途端に、さっきまでここにあったハズの緊張と甘い空気が一気に散らばってゆく。

 それを、ほんのちょっぴり勿体ない。と思いつつも、これで良かったんだよって心の中で頷いた。

 だって、こんなのやっぱり理不尽だもの。
 
 あ、でもそれは悪戯するかされるかってことに対してではなく

 どうせ選ばなきゃならないんだったら言わされるんじゃなくて自分の意思で選びたい。
 だってさ、自分ばっかりが動揺させられてるってなんだか癪だし。

「よし、決めた。思いついたよ、琉夏くん」

 悪戯します、わたし。

 お互いに思う存分笑いあって、相変わらず近い距離にある琉夏くんのおでこに自分のおでこをくっつけて
ニッコリ笑いながらこう告げる。

「へぇ、じゃぁドウゾ」
「はい、それでは遠慮なく」
 
 何されるんだろ、楽しみだなぁ。なんて笑う余裕の琉夏くんにちょっぴりムッとしながら
負けるものかとわたしは下ろしていた両手を持ち上げ、彼の首へと巻きつけた。

「ね、目を閉じて?」
「え?閉じるんだ。エッチめ」
「うるさい。言われた通りにするの」
「は~い」
「あ、それと膝も曲げて?」
「膝?どれくらい?」
「わたしの背と同じ高さになるまで」
「りょーかい」

 わたしに言われた通り、瞼をぴったりくっつけて膝を曲げる琉夏くんを確認してふふっと笑う。
 琉夏くん、悪戯される方なのに、なんでそんなに嬉しそうなんだろ。
 まるでプレゼントを待つ子供みたいな無邪気な笑顔。
 そんな彼の顔を見つめながら、わたしはときめきと緊張に胸を弾ませ、彼の耳元に唇を近づける。

 わたしが囁く言葉を聞いて、琉夏くんどんな顔をするだろう。
 びっくりするかな?それとも困っちゃうかな?

 ダメだった時は悪戯だよって誤魔化そう、うん。
 
 なんてちょっぴり後ろ向きな言い訳も用意しつつ、わたしは彼に悪戯をしかけるべく
彼の耳に最初の言葉を囁きかける。

「あのね、琉夏くん…」
 
 びっくりしても、困っても、ダメだったとしても
 琉夏くん、最後には笑ってくれると嬉しいな。
 
 





2010.11.01 『王子様なイタズラ天使』遅れちゃったけどトリックオアトリート! アキラ28号

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クリスマスの子羊さん


 赤鼻のトナカイ
 サンタクロース
 クリスマスツリー
 赤いマフラーの雪だるま
 お星さま、と…
 それからそれから。

 今日はクリスマス。3人でパーティをしようってことでわたしたちはwest beachに集まって
とてもささやかだけどクリスマスのお祝いをした。

 クリスマスケーキは金銭的な問題その他諸々の理由で買えなくて、代わりにホットケーキを重ねたものになっちゃったし
 おうちの中は隙間風がびゅうびゅう入ってくるから寒くて震えちゃったけど
 コウくんルカくんと一緒に過ごすクリスマスは、凄く凄く楽しかった。
 
 ここ最近、バイトが忙しかったらしいコウくんが、パーティも一段落ってところで気を抜いてついウッカリ寝てしまうまでは。だけど
 



 クリスマスの子羊さん



「あんの…バカルカ」
「まぁまぁ」

 もはやコレは芸術なんじゃないか?って思えるぐらいに細かくびっちりとクリスマスっぽい絵を顔に描かれたコウくんが
盛大なため息を吐き出して散らかったテーブルを片付けている。
 騒ぎを起こした琉夏くんはとっくの昔に逃走して、わたしはさすが琉夏くん逃げ足早いなぁと関心しながら
ぶつぶつ文句を言って片付け続けるコウくんを大変だったねって手伝って、ついさっき起きた出来事を思い出しふふふっと笑った。

 実はわたし、うたた寝しているコウくんの顔に琉夏くんが芸術的な落書きを施していることに気がついていたけど黙ってた。
 注意すべき?って少し考えて、バレたらわたしも一緒になって怒られるのかな?とも思ったけど
怖さよりも自分の顔を見たコウくんがどんな反応をするのか?って好奇心の方が強くて起こせなかった。

 だってさ「共犯だよ」って悪戯っ子の目をして笑う琉夏くんには逆らえないし
「ムスッとした顔よりは面白いでしょ」という言葉に、わたしも「確かに」って思っちゃったんだもん。

「オイ、何笑ってんだ。オマエ」
「な、なんでも?あっ」

 楽しそうにコウくんの顔に落書きをしてゆく琉夏くんと、されているコウくんの姿を思い出して笑っていたら
疑ってるぞ?って感じのジットリ目でこっちを見ていたコウくんから、頭を肘で軽く小突かれてしまった。

「痛いよもうっ!」
「嘘つけ、バーカ」

 本当は大して痛くなかったけど、思いっきり口を尖らせて拗ねて見せたら
なんて顔してんだってコウくんに笑われて、少し意地っ張りなわたしはムッとなったけれど
何故か気持ちとは反対に口の端は勝手に上がってしまい、慌てたわたしはそれを見せないように両手で顔を押さえ
誤魔化すように「知らないっ」とそっぽを向いた。

 意地悪なことを言われてもされても、悔しいことに最後にわたしは必ずコウくんの笑顔に負けてしまう。
 何故なら彼がわたしに向けてくれる笑顔は優しくて、わたしだけが知ってる顔だからだ。

「あー、悪ぃ、今日」
「ん?」

 どうだ、羨ましいでしょ?なんて、ほんの少し知らない誰かに対して優越感に浸ったところでいきなりコウくんに謝られ
びっくりしたわたしは思わず彼を見上げて首を傾げる。

 今日は特に失敗したことも心配することも無かった、なのに何でコウくんはわたしに謝ってるんだろ?

 全く意味が分からないよ?という気持ちで彼を見つめるとわたしの思ってることに気付いてくれたのかコウくんが
凄く言い辛そうな顔で「クリスマスイルミネーション」と呟いた。

「ああっ!それ?」
「行きたかったんだろ?オマエ」
「うん、まぁ確かに行きたかったけど。でもね、いいんだよ、今日スッゴク楽しかったから。
 イベントはさ、来年もきっとあるだろうし。あ、そうだ、来年!来年行こうよコウくんっ」

 本当は結構行きたいな、と思ってた。けどここで3人、クリスマスを過ごして楽しかったのもホントだから
 全然気にしなくていいんだよ?ってコウくんを見上げてニッコリ笑ってみせる。
 すると何故だかコウくんはびっくりしたような顔でわたしを見て、それから複雑そうな顔で「ああ」って頷いた。

 はてさて、わたしはまた何かおかしなことを言ったのだろうか?

 そう思って自分の言ったことを思い出してみるけれど、どこにもおかしなところは思い当たらなくて。
 しかもなんだかコウくん顔が赤いような気がするんだけど…うーん、これは気のせいかな?

「さて、後はこれを片付けたら終わりだね」
「ああ、悪ぃ。助かった」

 洗いもんは琉夏のバカに任しておけばいいからよって言うコウくんに素直に頷いて、わたしは休憩する為にカウンター前のイスに座り
「お疲れ」って言葉と一緒に差し出されたコーヒーを受け取った。

 きっと、このコーヒーを飲み終えたらコウくんに「送ってくから用意しろ」って言われるんだろうな。
 時間ももう遅い、だから帰るのは当たり前なんだけど、考えちゃうとどうしても寂しくなってしまう。
 
 本音はもっと一緒にコウくんといたい。

 けどそんなこと言えるわけなくて、わたしは心の中の気持ちを押し込めるようにマグカップに口をつけて熱いコーヒーを一口啜った。

「……」
「……」

 不自然に空いた間。
 それが何故だか凄く寂しくて、わたしは慌てて周りに目を凝らす。

「あれ?」
「ん?どうした」
「ほら、これ」
「……ああ」

 すると目線の先、長いソファの端にちょこんと座っている小さな赤い箱を見つけて
 あ、そういえば琉夏くんが逃走する前ここに置いて行ったっけ。
 そんなことをふっと思い出してわたしは小箱を持ち上げると、コウくんにそれを手渡した。
 
「これなぁ、どうせロクなもんじゃねぇだろ」
「そうかな?」

 琉夏のことだから悪戯目的なんだろうよって苦い顔してコウくんが乱暴に箱の包装紙を剥がしだす。
 表にはマジックの太い方ででかでかと「プレゼントです★琉夏より」なんて書いてあって、確かに見た目は凄く怪しい。
 でも折角の琉夏くんからのプレゼントなんだからもうちょっと優しく箱を開けたらいいのにな。
 なんて思うけど、きっとそう言ってみたところでめんどくせぇ、なんて返事が返ってくるんだろう。 

「ねぇねぇ、中に何が入ってるの?」
「ああ、ちょっと待……げっ」
「げ?」
「……」

 箱の中を覗いた途端、声を詰まらせて絶句するコウくんを不思議に思って
「なに?やっぱり悪戯だった?」と言いながら箱の中身を覗こうとコウくんの方へ身を乗り出す。
 
「バ、バカッ!オマエは見んなっ!!」
「はっ?いきなりなに?酷いっ!」

 するといきなり大きな手の平に視界を遮られ、耳には焦ったコウくんの声が聞こえてきた。
 グイグイと遠ざけるように押してくる彼の手のひらに少しムッとして、わたしは両手でコウくんの腕を掴んで引き剥がす。
 
「うわっ!バカっ!!」

 と、突然の抵抗に驚いたのかバランスを崩したコウくんの、その隙を狙ってわたしは素早く彼の手元にあった小箱を掠め取り
それを抱えたまま勢いよくイスから飛び降りると、コウくんの手の届かない位置まで急いで逃げ出した。
 
 ハァハァ…。

 咄嗟のダッシュと緊張にちょっとだけ息を切らし、けれどその間もコウくんとの間合いを計るため意識を集中して
威嚇するみたいに彼を見つめながら箱の中へ自分の手を突っ込む。

 手の感覚だけを頼りに中身をゴソゴソかき回す。
 するとと手にちくちくと何かが刺さる感触があって、わたしは「ん?」と首を傾げた。

 中にはどうやら個別にパックしてあるものらしいものが幾つか入っていて、わたしの手を刺しているのはどうやらその側面部分。
 で、その一個一個が何が入ってるの?って思うぐらいに凄く薄くて、でもペラペラしているわけでもなく
なんというか、真ん中あたりに違和感というか特徴のある形の何かが入っているような感触があって……

(はて、これはなんだろう?)

 触っただけじゃ中身が何なのか見当も付かなかったわたしは、目線をコウくんに向けたまま
箱の中の物を一つ掴むと、彼に見せるようにそれを前に突き出した。 

「コウくんこれっ……うわぁぁぁ!!」
「ああ、まあ……ああ」

 自分の手にある物体を直接目で確認して絶句する。 
 目の前にいるコウくんは何といったらいいのか分からないって顔をしていて…頭が真っ白になったわたしは
どうしようもなくただ金魚みたいに口をパクパク動かした。

「…………」
「…………」

 一瞬にしてさっきとはまた違う気まずさに固まる空気。
 
 うう、沈黙が痛い。

 て、手に持ってるコレ、放り投げるわけにもいかないしどうしたらいいんだろ。
 流石に何事も無かったみたいに箱にしまって笑うわけにもいかないし……。
 というか一体なんだって琉夏くんってばこんなものをプレゼントに─

「…オイッ」
「へっ!?えっ!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「わっバカッ、そんなデケェ声だしてんじゃねぇ」

 気が付けばいつの間にかコウくんがすぐ傍まで来ていて、近さに驚いて思わず叫び声をあげてしまったわたしは
「ビックリするだろうが」と非難めいた声でコウくんに怒られ、大きな手で口を押さえられてしまった。

「ふ、ふみまふぇんでした」

 彼の手の中で、もごもごと口を動かして謝ってみるけど、普通は驚くよね?って思う。
 だっていきなりの至近距離だしこのタイミングなんだもん。

 気持ちを訴えるようにコウくんを見上げてみる。けれど分かってないのかお構いなしなのか
コウくんはいつものぎゅぎゅっと眉間にシワを寄せた不機嫌そうな顔でわたしを睨むと口から手を離し、ハァと大きな息を吐き出した。

「……ホラよ」
「ん?何コレ」
「琉夏からの手紙だ」
「へ?あ、うん」

 箱の中に入ってたんだと、ムスっとした顔のままわたしの目の前でひらひらと小さな紙を揺らすコウくんの手から
引っ張るように紙を受け取って、書かれてある文字を読んでみる。

(なになに…?

『コウが怖いので今夜は帰りません。 美奈子ちゃん、コウをよろしく。
二人で仲良くイチャイチャして機嫌直しておいて♪
可愛い弟琉夏より。』

ハァ!?って!なんでそうなるのーーーーー!!!)

 驚き過ぎて声がでない、というか何を言えばいいのかさえさっぱり分からない。
 一体琉夏くんはわたしにどうしろと……まさか。
 いやいやいや、ないないない。
 いくら今日がクリスマスだからってそりゃないでしょ?ないようん。
 確かにわたし、コウくんともっと一緒にいたいとは思ったけどさ
考えていたのはもっとこう、フンワリとしたプラトニックな感じでって意味で…いや、だからって何も無いってのもヤダけど。
 そ、そりゃね?キ、キスぐらいはあったらいいなって確かに思ったよ?思ったけどでもいきなりこんな激しいのじゃなくて…って

 激しい?激しいって何?激しいって!ヤダもうわたしってばなに考えてんのっ!

(琉夏くんのばかぁ~)

「で、どうするよ」
「ど、どうするってそんなっ!!」

 混乱するわたしを見下ろして、ニヤリ。と笑ったコウくんの顔に頬を引き攣らせてわたしは一歩後ずさる。

 琉夏くんの手紙、そして箱の中とわたしの手の中にある琉夏くんのプレゼント。
 これは、どう考えたって辿り着く答えは一つしか無いけれど……

「… 美奈子」

 掠れたような声でコウくんに名前を呼ばれてビクッと身体が震える。
 恐る恐る見上げた彼の目は何とも言えない色をしていて、わたしは得体の知れない
というより分かっているんだろうけど認めたくない危機感に、思わず目線をあちこちにさ迷わせながら
コウくんから逃げるように、更に足を後ろに一歩踏み出した。
 
「さ、さぁっ!無事片付けも終わったことだし!」

 わざと明るく大きな声を出して、顔は…スッカリ引き攣ってしまっているけどそれでも何とか笑顔を作って
わたしはじりじりと後ろへ下がりながらコウくんを見上げる。

「ね?もうね、遅いからね、か、帰ろうかなぁって……えへ」

 来年もいい子でいます。だからこの狼から助けてくださいサンタさん…。

 そんなわたしの心の中の願いも虚しく、半歩下がれば半歩分、一歩下がれば一歩分コウくんが迫ってくる。
 それを何度か繰り返してゆくうちに、気が付けばわたしは自分自身で後ろの壁に身体を押し付けていたことに気が付いた。

 背後は壁、後がない。ということはこれは……

「ま、待って!話せば分かる!!」
「オマエ、今日は泊まりな」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇー!!」

 何とも言えない笑顔でコウくんに囁かれ、慌ててる間に抱えあげられてわたしは逃げるように手足をばたつかせる。

 一緒にいられるのは嬉しいけどいきなりすぎるよ!

そう言ってコウくんの身体を叩いてみるけど、ニヤッと笑うコウくんには全く効かないみたいでビクともしない。

「ま、無駄な抵抗はしないこった」
「ううっ……」

 正直、お姫様だっこは魅力的だし嬉しい。けどこれから先、起こることを考えたら無邪気に喜べない。
 だってきっと、すぐにお姫様扱いされなくなるのは目に見えてるし。
 
「たっぷり可愛がってやるよ、
美奈子。なんせクリスマスだからな」
「……いえ、手加減してください」

 関係ないよ、コウくんの可愛がりとクリスマスは関係ないよ。
 それに、コウくんの可愛がり方はわたしが考えてるのと全然違うんだよ。
 
 そう言いたくなる気持ちをぐっと堪えてわたしはじっとコウくんを見つめる。
 どうせ頑張って言ってみたところで目の前の狼が喜ぶだけだから。

(うーん。でもまぁ、これもアリ…かな?)

 クリスマスだもん、ちょっと考えていたこととは違うけど一緒にいられるんだから良かったってことにしよう。
 どうせ逃げられないのならと心の中で覚悟を決めて、わたしは逞しい彼の首に自分の腕を絡ませた。

「あ、でもその前に顔は洗おうよ」
「あぁ?そうだったな。じゃぁオマエをベッドに運んだら洗ってくるべえ」

 顔に描かれてある落書きの一つを突付いて呟くと、思い出したような顔でコウくんが頷いた。
 ふぅん、わたしを運ぶのが最優先なんだ。せっかちなのかのんびりやなのか良く分からないコウくんの言葉がおかしくて
思わず笑ってしまう。

「何笑ってんだ?別に俺はこのままでもいいけどよ。オマエ変わった趣味してんな」
「むっ、そんなのないもん。ばか」
「てめぇ、上等だコラ」

 後で覚えてろよ。そう言って階段を登る速度を速めたコウくんに抵抗するようにわたしは足をばたつかせる。
 あ~れ~やめてぇ~なんて言いながら笑ってコウくんにぎゅっと抱きついて、あ、なんだか幸せかも?と思っていたら
わたしの顔を見て何を思ったのか、コウくんは意地悪そうな顔でわたしを見つめて言った。

「琉夏のプレゼント、全部使い終わるまで寝かさねぇから覚悟しとけよ?」

 ……。
 
 わたし、明日無事に起きられるのかな。

 
 








クリスマスの予定は特にありません。というかコレ書いてましたよメリーだね
2010.12.25 アキラ28号

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お誕生日に看病されるの巻


 体調を崩してしまった、大事な日なのに。

 数日前から気をつけていたつもりだったのにどうしてこんな日に限ってこうなのだろうと
海野 アカリは見慣れた天井を見上げながら一人、ため息を吐いた。
 プレゼントは当日、一緒に…と思っていたから用意していない。
 今からどうにかしようなんて思ったってこんな状態では無理な話だ。

「ハァ…失敗したなぁ」

 こんなことなら事前に何か用意しておけば良かった。と、自分のマヌケさを呪ってみても後の祭り。
 ならせめて、おめでとうの一言でも伝えておかなければと携帯を手に取ってみるけれど
かけるタイミングを逃してしまって中々先に進めない。

 さっきから携帯を開けては閉じ、開けては閉じての繰り返しで、そろそろ壊れるんじゃないかと
本気で心配になった所で、 アカリは「この件は一旦保留しよう」と枕の近くに携帯を放り投げた。

 それにしても。

「暇、かもしれない」

 体は相変わらずだるいけれど、朝からずっとベッドの中では流石に飽きる。
 寝ようと思って目を閉じても今日のことが頭の中をぐるぐる回るし
それならば、と本でも読んで気分を紛らわそうかと手に取って開いてみれば頭痛がするし。

 じゃぁやっぱり…。と思って携帯を手にしてみれば、同じことを繰り返して最後にはため息。 

 一体どうすればいいの。と、自棄気味に掛けていた毛布を一気に頭の上まで引き上げる。
 そして「あーーー!」と意味もなく声を出してみると、毛布の向こうから微かに「カチリ」と何かの音がして
アカリは「はて?」と首を傾げ、窺うようにゆっくりと毛布から顔を出した。

「へぇ、かくれんぼかい?随分と余裕があるみたいだね。安心したよ」
「!?ど、ど、ど、どう」

 どうしてここにいるの!?

 全く予想していなかった人物の登場に激しく動揺して アカリは、心の中で絶叫し
それと同時に掴んでいた毛布を再び頭の上まで引き上げた。

「やれやれ、君は本当にかくれんぼが好きみたいだね。けど残念なことに僕は遊びにきたワケじゃないんだ。
まあ、君が望むんだったら今すぐ毛布を剥いであげてもいいけど」
 
 どうする?見つけて欲しい?

 意地悪な声と共にドアの閉まる音がして、ゆっくりと迫ってくる気配に アカリはぶるっと身体を震わせた。

 どうする?なんて、このままでは絶対にヤバイことは解ってる。
 けれど毛布から顔を出すのもかなり勇気が必要で……どうしよう、どうすればいい?と自問自答を繰り返していると
毛布越しに外側からやんわりと身体を撫でられて、危ないっ!と アカリは半ば放るように毛布を身体から離し
勢いよく上半身を起こした。

「かず……っ!ゴホッ!」
「ああ、病気なんだから無理は良くないよ」
「だ、だれのせいでっ!?」
「僕のせいとでも?」
「いえ、言いません……」
 
 そっちがその気ならこっちも考えがあるよ?と言いたげな瞳で見つめられ
途端に アカリは病気とは違う意味で身体をぶるっと震わせ、慌てて出て行こうとした言葉を引き止める。

 どれだけ体調が悪くても許してはくれないだろう、相手は赤城一雪だ。
 一応これでも病人相手に手加減してくれているのだろうけれど、元々がアレだから
全く加減してくれているようには感じられない。

 思わず無意識に「ハァ~」とため息を吐く。
 と、不機嫌そうな顔でジロリと睨まれてしまった。
 
「何?ひょっとして僕が来たら迷惑だった?これでも心配したんだけどね。待ってたのに連絡来ないし
どうしたんだろうって思ったら学校休んでるって聞いてさ、慌てて来たんだけど」

 嫌がられてるのなら帰るよ。

「まっ、待って!!」

 寂しそうに目を伏せられて、それじゃぁと部屋を出てゆこうとする一雪の制服の裾を咄嗟に掴んで
嫌なんかじゃないよ、と勢いよく頭を振って アカリは何度も同じ言葉を繰り返す。
 そんな彼女の姿に一瞬目を大きく見開き、それからふっと息を漏らすと目を細めて
一雪はゆっくりと アカリの頭に手のひらを乗せた。

「ゴメン、意地悪して」
「ううん、わたしの方こそごめん」

 心配かけたのに態度悪いよね。そう言ってうな垂れる アカリの頭を撫でて、一雪は「大丈夫」と声をかける。
 
 少しだけ拗ねただけだから。
 一雪は心の中で呟いた。

 待っていたのに連絡も無く、オマケに学校を休んでいると他の人に聞かされて不機嫌になっただけなんだ。

「お見舞い、ありがとね。あの…さ、それで誰に聞いたの?」
「ん?」
「わたしが学校休んでること」
「ああ、氷上くんだけど」
「氷上くん?」
「生徒会の用事でね、電話があったんだ。その流れで『そういえば、 海野君が体調を崩して休んでいるのだけど』なんて聞かされてさ
全然知らなかったから焦ったよ」
「うっ……ごめんなさい」

 いや、顔を見られて安心したから気にしなくていい。と再び頭を撫でながら頷いた一雪を アカリは上目遣いで見あげて
やっと安心したのか照れたように「へへっ」笑った。
 
「お誕生日おめでとう。何もできてなくてごめんなさい」
「いいよ、言葉だけでも嬉しいから」

 ありがとう。
 そう言って自分を見下ろす一雪の目を見つめて アカリはふふっとつられて笑う。

 けれど。

 あまりに素直な彼の態度に、何故か不安と疑問を覚えて アカリはハテ、と小さく首を傾げた。
 
 いくら身体が弱っている相手だからって、こんなに素直なのは変だ。
 「何もできなくてごめんなさい」って言ったら、いつもの一雪くんなら「いいよ」って言った後きっと
「別に期待してなかったし」なんて余計な一言がつくはずだもん。
 
 そう思って アカリは窺うように一雪の顔を覗き見る。
 と、その視線に何かを感じたのか、一雪はにやりと口の端を歪めると不安そうな顔の彼女の耳元に顔を寄せてこう囁いた。

「お見舞いのお礼と心配かけたお詫びと誕生日祝い。元気になったらまとめてしてもらうから気にしなくていいよ」

「なっ……!?」

 何を!?と聞きたい気持ちをぐっとこらえて アカリは口を閉じる。
 聞いたらきっと後悔する、何故かそんな気がして。

「早く良くなることを祈ってるよ。心の底から、ね」
 
 楽しみだなあ、と念を押すように囁かれて、 アカリは無意識に全身を震わせた。

 寒気がするし顔がとんでもなく熱い。けれどこれは体調が悪いからではないんだろうなあ。

 ベッドに倒れこみたくなる気持ちを根性で押し止めて アカリは彼を見上げて『にへらっ』と力なく笑った。

 頷いたって拒否したって、どうせ彼の言う通りになってしまうのだから、変に体力使うよりは肯定も否定もせず笑ってたほうがいいよね。
  
 そんな アカリの気持ちを知ってか知らずか一雪は彼女の頭を撫でながらゆっくりと微笑むと
「お大事に」と額にひとつ、くちづけた。


─パタンッ


 それじゃあ、またね。と、笑顔で部屋を出てゆく一雪の背中を見送って
アカリは壊れたようにベッドに崩れ落ちて大きく息を吐きだした。

 こんなに身体にも心にも悪いお見舞いは初めてだよと枕に向かって一人ごちて
とにかく、あの人に対抗できる体力はきちんとつけておかないと、と アカリはゆっくりと起き上がりベッドから抜け出す。

 あの悪魔に打ち勝つに為にとにかく今は腹ごしらえだ。
 
 そう心の中で呟いて、 アカリは気合を入れるようにふんっと鼻を鳴らすと母の待つリビングへ歩きだした。 

 



 



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