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乙女喫茶

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約束しようよ

「俺、オマエの為ならいつだって、なんだってするよ?」

 昔は、それこそウインクの一つも飛ばしながら軽い気持ちで言えたのに
どういうわけか最近は、それが喉の奥でつっかかってなかなかでてこなかったりする。

 けどそれは決して嫌いになったからとかそういう意味じゃなく
今だってオマエの為ならいつだってなんだってできるって胸を張って言えるけど

 ただあの頃とは違って
言葉に本気が篭っているから、簡単に言えなくなってしまっただけなんだ。

 時々、彼女のちょっとした仕草や言葉に気持ちが溢れてたまらなくなって
試すように本気の言葉を囁いてみては、すぐに「なんちて」だとか「てへっ」だとか
一番知りたいことを知る前に、誤魔化す言葉を付け足しては笑ってしまう。

 それがめちゃくちゃ情けなくて

 「・・・ハァ」

 気がつけば深呼吸みたいな息を吐いているんだ。
 ホント情けねぇな、俺

 今まではさ、いらないって思ってた感情だった。
 何にも執着したくないし、これからもしないつもりでいたのに
気がつけばこんなに、気持ちが知らないうちに俺の全部を飲み込んでしまうぐらいに大きくなっていて
いっそ突き放してしまえば楽になれるかな?なんて
昔だったら簡単にできたことを、ほんのちょっとでも想像するだけで
息ができないぐらいに胸が締め付けられて、張り裂けそうになってしまう。

 あのさ、俺はね?今、スゲェ幸せ。それは本当

 全然思い通りにならない感情や
 オマエに触れる度に感じる、不思議な感覚や
 幸せだって思う度にやってくる恐怖感が
 ごちゃごちゃ混ざって、持て余して戸惑ったりするけど

 オマエがいてくれるだけで
胸が凄くドキドキして、幸せだって思うんだ。


 「ん?どうしたの?琉夏くん」
 「え?ああ、うん。なんでもないよ」

 心の中の呟きが聞こえてしまったのか
それとも単に俺がじっと見つめていたことに気づいただけなのか
隣を歩いていたオマエが不思議そうに俺を見上げて「大丈夫?」と首を傾げる。

 「あ、今のスゲェ可愛い。ね、もう一回やって?」
 「もうっ!」

 ついつい反射的にいつもの言葉を吐き出して
 「琉夏くんのバカ」という台詞と同時に思いっきり口を尖らせプイッと明後日の方を向てしまったオマエの姿に
ヤバイ、と慌てて「ごめんね?」なんて両手を合わせて笑顔を作ってみせたけど

 今日のオマエはどういうわけだかいつもと違って意地悪で
チラッとこちらに目線を向けるとすぐ、さっきよりも更に口をツンと尖らせ向こうをむいてしまって
俺は、そこまでオマエの機嫌を損ねるようなこと言ったっけ?なんて自分の言葉を思い出して首を捻る。

 台詞はいつもと同じ、顔だってちゃんと笑えてた。なのになんでだろ?
 答えにたどり着かない言葉たちが頭の中をぐるぐる回って、眩暈がしそう。
 
 「えっと・・・ごめん?」

 何が悪かったのか、なんていくら考えてもやっぱり思いつかない。
 けれど彼女の機嫌が悪くなったのはどう考えても俺のせいみたいだから、と
小さく頭を下げて未だに明後日の方を向く彼女を見つめたら

 「・・・あれ」

 何故か肩が微妙に震えていて、そこで俺は初めてオマエが笑っていることに気がついた。

 「ひょっとして・・・笑ってる?」
 「えっ!?や、わ、笑ってひゃいよ!」
 「・・・。声、震えてるんだけど」
 「・・・・ごめんなさい」

 びっくりしちゃった?ごめんね?と俺を見上げて不安そうな顔をする姿に、スゲェびっくりしたよ、と頷きながら
安心したせいか、ついついいつもの悪戯心がムクムク湧いた俺は、さっきまでオマエがやってたようにわざと目線をずらす。

 「・・・なんで?」

 って、思いっきり口を尖らせ拗ねたよ、って感じで。 

 「だってさ、琉夏くんこっち見ながら変なこと考えてそうな顔してたんだもん」
 「えー、してないよ」
 「嘘だー、してたよ。凄く」
 「んー、そうかな?」

 俺の問いかけに、うんうん。と、激しく頷くオマエの姿に思わず笑って
それから、おかしいな?そういうのはちゃんと隠してるつもりなんだけど。って考える
 
 って、違う違う。

 俺、さっきは別にエッチなこと考えてなかったし。
 それどころか全く逆のこと考えてたじゃん。
 
 もしかして俺、真剣な時もエッチな妄想してるってコイツに思われてたりして。

 ・・・なんかヤダな、それ。

 あれ、でも待てよ?逆にエッチな妄想してる時ってどんな風に思われてるんだろ。
 案外「あれ、琉夏くん凄く真面目な顔してどうしたの?悩み事?」なんて言われるのかな。

 もしそうだったら・・・これからオマエの前で妄想し放題とか?

 うん、いいな、それ。
 よし、がんばれ俺。

 「あ、またおかしなこと考えてない?」
 「ん?いや?あー、まあ、ちょっとしてま・・・」
 「すん。は却下」
 「・・・。じゃぁしてました」
 「よろしい」

 え?いいの?それで。

 どう考えてもダメな方じゃん、普段だったら「もうっ!」って言うとこだろ。 
 俺の心の中の突っ込みに全く気づかず、満足そうに頷いてるオマエがめちゃくちゃ面白くて
とりあえず「ありがとう」と笑顔と一緒に頭を小さく下げて思う。
 この流れならひょっとして、堂々としてれば潔し!ってことで何でもオーケーしてもらえるとか?なんかさ、認めちゃえば大丈夫、みたいな感じだよね。
 まあどうせ、この状況じゃ笑っただけでもエッチだとか変だとかってオマエに言われるような気がするし、だったら少しぐらいいい目みたっていいよね。

 「・・・。あ、そうだ」
 「なに?」

 うんと小さく頷いて、ふと突然、何かを思いついたように空を見上げて声を出す。
 と、どうしたの?って言いながら、キョトンとした顔でオマエも同じように空を見上げて俺の目線を辿るから
俺は別に空には何もないんだけどね、って小さく笑いながら思いっきり油断している彼女の耳元に口を近づけた。
 
 「あのさ腕、組んで?欲しがってるんだ、オマエを」
 「うわっ!!って、え?えぇっ!!」

 あ、一応言い訳しておくと、別にエッチな気持ちでってワケじゃないから。

 そんな言い訳も一つ、付け足して。

 わざと耳元で囁いておいてなに言ってんだ、俺。って感じだけどさ

 そりゃ、青春真っ盛りの健全な男子なんだから邪な気持ちが全く無いなんてありえないし
許されるなら囁く以上のことだってしたいよ、俺は。どうせダメって言われるからやらないけど

 でもさ、いやらしい気持ちを抜きにしても俺、いつだってオマエと腕をぎゅって絡めて
俺達の間に隙間なんて見つからないぐらいにぴったりとくっつくきたいって思うんだ。

 「だめかな?」

 思いっきり怪しい、って顔で見上げるオマエをじっと見つめ、駄目押しとばかりに
首をちょっぴり傾げてねだるようにオマエの言う『断りきれない笑顔』でニッコリと笑う。

 「ぐっ・・・」
 「ダメ?」

 眉間にぎゅっとシワを寄せて苦い顔のオマエ。スゲェ面白い

 「ダメなの?」
 「ううっ・・・」

 めちゃくちゃ困ってる顔が面白くて、思わず噴出しそうになるのをぐっと堪えながら
寂しいな、と呟きつつ顔をゆっくりと近づけると
 
 「・・・どうなの?」
 「いや・・・でも、だって・・・」
 「・・・ちゅーするよ」
 「うっ・・・わかった!わかった!」

 すると、あとちょっとでおでこ同士がくっつきそうになる距離まできたところで
観念したように彼女が勢い良く頷いた。

 まあ、俺としてはこのままちゅーしても良かったんだけど?なんて言ったらまたエッチとか言われるんだろうな。
 でもこれは健全な証拠。
 だってさ、この距離まで近づいて何もしないってことの方がおかしいでしょ。

 まあ、どうせ健全だろうとなかろうとおあずけ状態なんだけど。

 ハァ・・・。

 「もうっ、琉夏くんズルイ」
 「いいじゃんこれぐらい、ね」
 「ね。じゃなーーい。あーもう、恥ずかしいのにっ!」
 「気にしないきにしない」
 「気にするってば~」

 真っ赤な顔を隠すように俯いて、ヤケ気味な声をだしながら
でもしっかり俺の腕を掴んでくれるオマエの態度に思わずニヤけてしまう。

 オマエさぁ、そんな顔するからついつい楽しくて悪戯したくなるんだってホント分かってないんだな。
 ま、でもそこがオマエのいいところだし、気がついて直されたら俺の楽しみ減っちゃうから黙ってるけど。

 なんて、本人が聞いたら絶対に怒りそうな理不尽な台詞を心の中で呟いて笑っていると
未だに顔を真っ赤に染めている彼女が突然顔をあげてちょっぴり大きな声をあげた。
 
 「あーもうっ、いいよ!!琉夏くんが笑ってくれるんだったらいいんだ」
 「え?」
 「琉夏くん時々寂しそうな顔してるからさ、凄く気になってたの。だから今みたいに琉夏くんが楽しいって笑ってくれるんなら
恥ずかしくても嬉しいなって思ったのっ!わかった?!」
 「わ・・・わかった」
 
 え?なにそれ。
 俺が楽しくて笑ったら、オマエも嬉しいってこと? 

 迫力に押されてうん、って頷いたところで自分の顔が赤くなってきていることに気づく。

 ああもうなんだコイツ、スゲェ可愛いんだけど。

 予想してなかった彼女の言葉に、思わず俺の腕を掴む手を思いっきり自分の方へ引き寄せ
周りなんかお構いなしに強く抱きしめたくなる衝動に駆られて慌てて頭を振る。
 俺としては場所なんて全然お構いなしだけど、こんなところでそんなことしたら流石にコイツも嫌がるだろうしね、だから我慢。
 
 ・・・うん、ちゃんと分かってるよ。
 俺達そんな関係じゃないから、例え二人っきりになったとしてもきっとそんなことさせてもらえない。
 無邪気な顔して「待て」されるのがいいとこなんだ。
 そのうちきっと・・・希望があることを信じてるから待てにも耐えられるけど、そろそろ我慢も限界にきそう、俺。

 「あっ、ねぇ琉夏くん、甘いの食べに行こうよ!」
 「甘い・・・。あー、うん、行こう」

 コッチの悩みも全く知らず、俺の方を見ながら暢気な声を出すオマエ。
 そんなオマエの顔をチラッと見ながら、少し気持ちの切り替え早くない?
と、小さく文句を呟いて、頬を膨らませながら「うん」と頷く。

 だって断る理由ないし。
 一緒にいられる時間が長くなるのは例え何もできなくったって嬉しいから。
 
 ・・・・。
 って、いい加減しつこい、俺。

 「よし、やった!じゃぁ琉夏くんのおごり!」
 「えっ?」

 なんて、半ば無理やりに自分を納得させ、さぁ!気持ちを切り替えていこう!と思ったところで
 さっきのお返しとばかりに彼女の口から恐ろしい台詞が聞こえてきて俺は一気に青ざめる。

 待って、ちょっとまって。えぇっと財布の中いくら入ってたっけ。
 紙でできたものって数えるほども無かったよな、茶色い硬貨はなんかたくさんはいってたけど。
 
 バイト代でるまであと・・・・・マズイ。これはマズイ
 昼飯全部アメちゃんにしてもかなりマズイ。

 「あーのさ、おごってあげたい気持ちはスゲェあるんだけど・・・俺、今月もかなりピンチで・・・」
 「じゃぁ、ツケといてあげます。利子高いよ?」
 「わーお。マジ?」
 「うん、マジマジ」

 意地悪そうな顔でニッと笑うオマエ。
 知ってる、こういう顔するときって、なんか変なこと考えてるんだ。

 とりあえず、お金じゃないにしてもとんでもない物はカンベン。
 
 なんてちょっぴりビビっていると、何故か彼女はほっぺたを赤くしながらニッコリと俺を見上げて

 「うん、でもね?お金じゃないから安心していいよ」
 「え?じゃあ何?」 
 「えっとね、今度の休み琉夏くんの1日をいただきます。ってことでオーケー?」

 あまり慣れてない感じのウィンク一つ投げて、今日一番の笑顔で微笑んだ。

  ああもう、突然何を言い出すんだよ。
  止まらなくなったらどうすんだ、コラ。

 理性のストッパーもブチ切れて、暴走しそうになる欲求を必死で抑え、赤くなった顔を隠すように急いで口に手をあてる。

 なんだこれヤベェ、もうムリ、抱きしめたい。けどそれもムリ・・・・。
 どうすんだよこれ、俺どうしたらいいんだよ・・・。

 俺を試すような破壊力満点の笑顔と言葉。
 コイツ、俺をこれ以上おかしくしてどうするんだよ。ああ、もう、ホントオマエには敵わない

 「よし、任せろ」
 「うん、任せたっ!」

 ありったけの理性で気持ちを抑えてなんとか頷いて、でも、せめてこれくらいは・・・と、組んだ腕が解けないようにぎゅっと力をこめる。

 「じゃ行こっか。ふふふふふっ」

 動揺で、不自然な動きをしてしまっている俺の隣で、鼻歌まじりの暢気な顔で歩くオマエ。

 そんな彼女を盗み見て
言っておくけど気持ちを抑えてられるのも今のうち。
俺をこんな風にした責任はちゃんと取ってもらうからね?なんてちょっぴり物騒なことを思いつつ
何故かこの、なんでもない幸せに泣きそうになってしまった。

 幸せで泣きそうなんて乙女か、俺

 そう、心の中で突っ込んで、単純な自分に苦笑いして。

 「・・・あのさ、美奈子」
 「ん?なに?琉夏くん」
 「あ、いや。やっぱなんでもない」
 「変なのっ」
 「まぁね~」
 「褒めてないよっ」
 
  俺、今はまだオマエを守れる自信も無いし、今を生きていくのに必死だけど
  いつか、もっともっと強くなって何もかも乗り越えられたら

 その時はサクラソウと一緒に

 あいしてる

 って伝えに行くから。

 なあ、美奈子。

 俺の心を重くする塊も消えることはないし、悲しいことだってこれからもあると思うけど

 俺はオマエを絶対幸せにするから
 オマエも俺を幸せにしてくれる?



 ・・・って、あ。


 ごめん。やっぱ訂正。
 



 俺はオマエがいてくれるだけで幸せ。
 だから、ずっと俺の傍にいて?







2010.09.17 アキラ28号

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