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乙女喫茶

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約束しようよ

「俺、オマエの為ならいつだって、なんだってするよ?」

 昔は、それこそウインクの一つも飛ばしながら軽い気持ちで言えたのに
どういうわけか最近は、それが喉の奥でつっかかってなかなかでてこなかったりする。

 けどそれは決して嫌いになったからとかそういう意味じゃなく
今だってオマエの為ならいつだってなんだってできるって胸を張って言えるけど

 ただあの頃とは違って
言葉に本気が篭っているから、簡単に言えなくなってしまっただけなんだ。

 時々、彼女のちょっとした仕草や言葉に気持ちが溢れてたまらなくなって
試すように本気の言葉を囁いてみては、すぐに「なんちて」だとか「てへっ」だとか
一番知りたいことを知る前に、誤魔化す言葉を付け足しては笑ってしまう。

 それがめちゃくちゃ情けなくて

 「・・・ハァ」

 気がつけば深呼吸みたいな息を吐いているんだ。
 ホント情けねぇな、俺

 今まではさ、いらないって思ってた感情だった。
 何にも執着したくないし、これからもしないつもりでいたのに
気がつけばこんなに、気持ちが知らないうちに俺の全部を飲み込んでしまうぐらいに大きくなっていて
いっそ突き放してしまえば楽になれるかな?なんて
昔だったら簡単にできたことを、ほんのちょっとでも想像するだけで
息ができないぐらいに胸が締め付けられて、張り裂けそうになってしまう。

 あのさ、俺はね?今、スゲェ幸せ。それは本当

 全然思い通りにならない感情や
 オマエに触れる度に感じる、不思議な感覚や
 幸せだって思う度にやってくる恐怖感が
 ごちゃごちゃ混ざって、持て余して戸惑ったりするけど

 オマエがいてくれるだけで
胸が凄くドキドキして、幸せだって思うんだ。


 「ん?どうしたの?琉夏くん」
 「え?ああ、うん。なんでもないよ」

 心の中の呟きが聞こえてしまったのか
それとも単に俺がじっと見つめていたことに気づいただけなのか
隣を歩いていたオマエが不思議そうに俺を見上げて「大丈夫?」と首を傾げる。

 「あ、今のスゲェ可愛い。ね、もう一回やって?」
 「もうっ!」

 ついつい反射的にいつもの言葉を吐き出して
 「琉夏くんのバカ」という台詞と同時に思いっきり口を尖らせプイッと明後日の方を向てしまったオマエの姿に
ヤバイ、と慌てて「ごめんね?」なんて両手を合わせて笑顔を作ってみせたけど

 今日のオマエはどういうわけだかいつもと違って意地悪で
チラッとこちらに目線を向けるとすぐ、さっきよりも更に口をツンと尖らせ向こうをむいてしまって
俺は、そこまでオマエの機嫌を損ねるようなこと言ったっけ?なんて自分の言葉を思い出して首を捻る。

 台詞はいつもと同じ、顔だってちゃんと笑えてた。なのになんでだろ?
 答えにたどり着かない言葉たちが頭の中をぐるぐる回って、眩暈がしそう。
 
 「えっと・・・ごめん?」

 何が悪かったのか、なんていくら考えてもやっぱり思いつかない。
 けれど彼女の機嫌が悪くなったのはどう考えても俺のせいみたいだから、と
小さく頭を下げて未だに明後日の方を向く彼女を見つめたら

 「・・・あれ」

 何故か肩が微妙に震えていて、そこで俺は初めてオマエが笑っていることに気がついた。

 「ひょっとして・・・笑ってる?」
 「えっ!?や、わ、笑ってひゃいよ!」
 「・・・。声、震えてるんだけど」
 「・・・・ごめんなさい」

 びっくりしちゃった?ごめんね?と俺を見上げて不安そうな顔をする姿に、スゲェびっくりしたよ、と頷きながら
安心したせいか、ついついいつもの悪戯心がムクムク湧いた俺は、さっきまでオマエがやってたようにわざと目線をずらす。

 「・・・なんで?」

 って、思いっきり口を尖らせ拗ねたよ、って感じで。 

 「だってさ、琉夏くんこっち見ながら変なこと考えてそうな顔してたんだもん」
 「えー、してないよ」
 「嘘だー、してたよ。凄く」
 「んー、そうかな?」

 俺の問いかけに、うんうん。と、激しく頷くオマエの姿に思わず笑って
それから、おかしいな?そういうのはちゃんと隠してるつもりなんだけど。って考える
 
 って、違う違う。

 俺、さっきは別にエッチなこと考えてなかったし。
 それどころか全く逆のこと考えてたじゃん。
 
 もしかして俺、真剣な時もエッチな妄想してるってコイツに思われてたりして。

 ・・・なんかヤダな、それ。

 あれ、でも待てよ?逆にエッチな妄想してる時ってどんな風に思われてるんだろ。
 案外「あれ、琉夏くん凄く真面目な顔してどうしたの?悩み事?」なんて言われるのかな。

 もしそうだったら・・・これからオマエの前で妄想し放題とか?

 うん、いいな、それ。
 よし、がんばれ俺。

 「あ、またおかしなこと考えてない?」
 「ん?いや?あー、まあ、ちょっとしてま・・・」
 「すん。は却下」
 「・・・。じゃぁしてました」
 「よろしい」

 え?いいの?それで。

 どう考えてもダメな方じゃん、普段だったら「もうっ!」って言うとこだろ。 
 俺の心の中の突っ込みに全く気づかず、満足そうに頷いてるオマエがめちゃくちゃ面白くて
とりあえず「ありがとう」と笑顔と一緒に頭を小さく下げて思う。
 この流れならひょっとして、堂々としてれば潔し!ってことで何でもオーケーしてもらえるとか?なんかさ、認めちゃえば大丈夫、みたいな感じだよね。
 まあどうせ、この状況じゃ笑っただけでもエッチだとか変だとかってオマエに言われるような気がするし、だったら少しぐらいいい目みたっていいよね。

 「・・・。あ、そうだ」
 「なに?」

 うんと小さく頷いて、ふと突然、何かを思いついたように空を見上げて声を出す。
 と、どうしたの?って言いながら、キョトンとした顔でオマエも同じように空を見上げて俺の目線を辿るから
俺は別に空には何もないんだけどね、って小さく笑いながら思いっきり油断している彼女の耳元に口を近づけた。
 
 「あのさ腕、組んで?欲しがってるんだ、オマエを」
 「うわっ!!って、え?えぇっ!!」

 あ、一応言い訳しておくと、別にエッチな気持ちでってワケじゃないから。

 そんな言い訳も一つ、付け足して。

 わざと耳元で囁いておいてなに言ってんだ、俺。って感じだけどさ

 そりゃ、青春真っ盛りの健全な男子なんだから邪な気持ちが全く無いなんてありえないし
許されるなら囁く以上のことだってしたいよ、俺は。どうせダメって言われるからやらないけど

 でもさ、いやらしい気持ちを抜きにしても俺、いつだってオマエと腕をぎゅって絡めて
俺達の間に隙間なんて見つからないぐらいにぴったりとくっつくきたいって思うんだ。

 「だめかな?」

 思いっきり怪しい、って顔で見上げるオマエをじっと見つめ、駄目押しとばかりに
首をちょっぴり傾げてねだるようにオマエの言う『断りきれない笑顔』でニッコリと笑う。

 「ぐっ・・・」
 「ダメ?」

 眉間にぎゅっとシワを寄せて苦い顔のオマエ。スゲェ面白い

 「ダメなの?」
 「ううっ・・・」

 めちゃくちゃ困ってる顔が面白くて、思わず噴出しそうになるのをぐっと堪えながら
寂しいな、と呟きつつ顔をゆっくりと近づけると
 
 「・・・どうなの?」
 「いや・・・でも、だって・・・」
 「・・・ちゅーするよ」
 「うっ・・・わかった!わかった!」

 すると、あとちょっとでおでこ同士がくっつきそうになる距離まできたところで
観念したように彼女が勢い良く頷いた。

 まあ、俺としてはこのままちゅーしても良かったんだけど?なんて言ったらまたエッチとか言われるんだろうな。
 でもこれは健全な証拠。
 だってさ、この距離まで近づいて何もしないってことの方がおかしいでしょ。

 まあ、どうせ健全だろうとなかろうとおあずけ状態なんだけど。

 ハァ・・・。

 「もうっ、琉夏くんズルイ」
 「いいじゃんこれぐらい、ね」
 「ね。じゃなーーい。あーもう、恥ずかしいのにっ!」
 「気にしないきにしない」
 「気にするってば~」

 真っ赤な顔を隠すように俯いて、ヤケ気味な声をだしながら
でもしっかり俺の腕を掴んでくれるオマエの態度に思わずニヤけてしまう。

 オマエさぁ、そんな顔するからついつい楽しくて悪戯したくなるんだってホント分かってないんだな。
 ま、でもそこがオマエのいいところだし、気がついて直されたら俺の楽しみ減っちゃうから黙ってるけど。

 なんて、本人が聞いたら絶対に怒りそうな理不尽な台詞を心の中で呟いて笑っていると
未だに顔を真っ赤に染めている彼女が突然顔をあげてちょっぴり大きな声をあげた。
 
 「あーもうっ、いいよ!!琉夏くんが笑ってくれるんだったらいいんだ」
 「え?」
 「琉夏くん時々寂しそうな顔してるからさ、凄く気になってたの。だから今みたいに琉夏くんが楽しいって笑ってくれるんなら
恥ずかしくても嬉しいなって思ったのっ!わかった?!」
 「わ・・・わかった」
 
 え?なにそれ。
 俺が楽しくて笑ったら、オマエも嬉しいってこと? 

 迫力に押されてうん、って頷いたところで自分の顔が赤くなってきていることに気づく。

 ああもうなんだコイツ、スゲェ可愛いんだけど。

 予想してなかった彼女の言葉に、思わず俺の腕を掴む手を思いっきり自分の方へ引き寄せ
周りなんかお構いなしに強く抱きしめたくなる衝動に駆られて慌てて頭を振る。
 俺としては場所なんて全然お構いなしだけど、こんなところでそんなことしたら流石にコイツも嫌がるだろうしね、だから我慢。
 
 ・・・うん、ちゃんと分かってるよ。
 俺達そんな関係じゃないから、例え二人っきりになったとしてもきっとそんなことさせてもらえない。
 無邪気な顔して「待て」されるのがいいとこなんだ。
 そのうちきっと・・・希望があることを信じてるから待てにも耐えられるけど、そろそろ我慢も限界にきそう、俺。

 「あっ、ねぇ琉夏くん、甘いの食べに行こうよ!」
 「甘い・・・。あー、うん、行こう」

 コッチの悩みも全く知らず、俺の方を見ながら暢気な声を出すオマエ。
 そんなオマエの顔をチラッと見ながら、少し気持ちの切り替え早くない?
と、小さく文句を呟いて、頬を膨らませながら「うん」と頷く。

 だって断る理由ないし。
 一緒にいられる時間が長くなるのは例え何もできなくったって嬉しいから。
 
 ・・・・。
 って、いい加減しつこい、俺。

 「よし、やった!じゃぁ琉夏くんのおごり!」
 「えっ?」

 なんて、半ば無理やりに自分を納得させ、さぁ!気持ちを切り替えていこう!と思ったところで
 さっきのお返しとばかりに彼女の口から恐ろしい台詞が聞こえてきて俺は一気に青ざめる。

 待って、ちょっとまって。えぇっと財布の中いくら入ってたっけ。
 紙でできたものって数えるほども無かったよな、茶色い硬貨はなんかたくさんはいってたけど。
 
 バイト代でるまであと・・・・・マズイ。これはマズイ
 昼飯全部アメちゃんにしてもかなりマズイ。

 「あーのさ、おごってあげたい気持ちはスゲェあるんだけど・・・俺、今月もかなりピンチで・・・」
 「じゃぁ、ツケといてあげます。利子高いよ?」
 「わーお。マジ?」
 「うん、マジマジ」

 意地悪そうな顔でニッと笑うオマエ。
 知ってる、こういう顔するときって、なんか変なこと考えてるんだ。

 とりあえず、お金じゃないにしてもとんでもない物はカンベン。
 
 なんてちょっぴりビビっていると、何故か彼女はほっぺたを赤くしながらニッコリと俺を見上げて

 「うん、でもね?お金じゃないから安心していいよ」
 「え?じゃあ何?」 
 「えっとね、今度の休み琉夏くんの1日をいただきます。ってことでオーケー?」

 あまり慣れてない感じのウィンク一つ投げて、今日一番の笑顔で微笑んだ。

  ああもう、突然何を言い出すんだよ。
  止まらなくなったらどうすんだ、コラ。

 理性のストッパーもブチ切れて、暴走しそうになる欲求を必死で抑え、赤くなった顔を隠すように急いで口に手をあてる。

 なんだこれヤベェ、もうムリ、抱きしめたい。けどそれもムリ・・・・。
 どうすんだよこれ、俺どうしたらいいんだよ・・・。

 俺を試すような破壊力満点の笑顔と言葉。
 コイツ、俺をこれ以上おかしくしてどうするんだよ。ああ、もう、ホントオマエには敵わない

 「よし、任せろ」
 「うん、任せたっ!」

 ありったけの理性で気持ちを抑えてなんとか頷いて、でも、せめてこれくらいは・・・と、組んだ腕が解けないようにぎゅっと力をこめる。

 「じゃ行こっか。ふふふふふっ」

 動揺で、不自然な動きをしてしまっている俺の隣で、鼻歌まじりの暢気な顔で歩くオマエ。

 そんな彼女を盗み見て
言っておくけど気持ちを抑えてられるのも今のうち。
俺をこんな風にした責任はちゃんと取ってもらうからね?なんてちょっぴり物騒なことを思いつつ
何故かこの、なんでもない幸せに泣きそうになってしまった。

 幸せで泣きそうなんて乙女か、俺

 そう、心の中で突っ込んで、単純な自分に苦笑いして。

 「・・・あのさ、美奈子」
 「ん?なに?琉夏くん」
 「あ、いや。やっぱなんでもない」
 「変なのっ」
 「まぁね~」
 「褒めてないよっ」
 
  俺、今はまだオマエを守れる自信も無いし、今を生きていくのに必死だけど
  いつか、もっともっと強くなって何もかも乗り越えられたら

 その時はサクラソウと一緒に

 あいしてる

 って伝えに行くから。

 なあ、美奈子。

 俺の心を重くする塊も消えることはないし、悲しいことだってこれからもあると思うけど

 俺はオマエを絶対幸せにするから
 オマエも俺を幸せにしてくれる?



 ・・・って、あ。


 ごめん。やっぱ訂正。
 



 俺はオマエがいてくれるだけで幸せ。
 だから、ずっと俺の傍にいて?







2010.09.17 アキラ28号

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王子様なイタズラ天使

 
「悪戯してくれなきゃ悪戯するぞ?」
「?」
「ハロウィンっていいよね。うん」

 ……へ?
 
 突然おかしな台詞を呟いて、一人頷いている琉夏くんを見上げわたしは「はて?」と首を傾げる。

 悪戯に悪戯って…。まさかそんな、ありえないでしょ?そう思って隣の彼をチラリと横目で盗み見てみれば
前を向いたままニヤニヤしている琉夏くんの姿が目の端っこに見えて
ああ、これは聞き間違えでも何でもなく、ワザとなんだな、ってことに気がついた。 

「ねえ琉夏くん。ハロウィンは『お菓子くれなきゃ悪戯するぞ』だよ?」
「ん?まあね。でもほら、それだと面白くないでしょ」

 いや、面白いとか面白くないとか関係ないと思うんだけど……。
 
 『ハロウィンはヨーロッパを起源とする民族行事で
カトリックの諸聖人の日(万聖節)の前晩(10月31日)に行われる。
諸聖人の日の旧称"All Hallows"のeve(前夜祭)~』

 この前ネットのどこかで読んだハロウィンについての記事を頭の中でなんとなく繰り返してうーんと唸る。
 そっか、琉夏くんにかかれば西洋の大切な儀式もただの『悪戯できる楽しい日』になっちゃうんだ。
 
 別にそれが悪いとは言えないけどさ、だいたい日本人でハロウィンが何なのかってちゃんと分かってる人はあまり多くないと思うし
わたしだってあの記事を読むまでは子供たちが各家を回ってお菓子を貰う日みたいなものだって思ってたもん。

 だから琉夏くんが間違った解釈だとしてもハロウィンを楽しむのはいいと思う。
 わたしだって折角楽しそうにしているのにここで本来ハロウィンが何であるかなんて
事細かに説明するような無粋なことはしたくない。

 (なんだけどね~)

 ただそうなると問題が一つあって、彼が『何かで楽しむ時』は確実に『誰か』がその犠牲になってしまうってこと。
 今年のエイプリールフールなんて琉夏くんがついた嘘でコウくんが振り回されてボロボロになってたし…。

 パッと思いつくだけでも片手を軽く超える無謀さと悪行と暴走の数々と、最後には泣きそうになっていたコウくんの顔を思い出してわたしは
背中を冷たい何かに撫でられたように、ぶるっと体を震わせた。

  ひょっとして、今回の標的はわたしかなぁ。
  ああ、コウくんの気持ち分かりたくないのに分かる気がするよ…。

 予感というより確信に近い感覚に心が挫けかける。
 ああ、でもダメダメ。気持ちだけはしっかりしなきゃ

 そう思って慌てて気合を入れてみたけれど、心の奥から次々と湧いてくる嫌な感じは何処にも行ってくれなくて
 でもなんとかそれを振り払おうと精一杯の笑顔を作って琉夏くんを見上げてみたけれど

「な、なんで選択肢が悪戯するかされるかなのかな?」
「だってオマエにして欲しいし、悪戯。あ、するのも好きだけどね」
「えっ」

 最高の笑顔で悪夢の始まりのような言葉を告げられてわたしは
わたしの中にある小さな希望や努力の全てが粉々に打ち砕かれてゆくのを感じた。

「 美奈子」
「なによぅ」

 こうなったら自棄だと考えることを放棄して、遠くをみつめるわたしの目を
遮るようにねえ?とわたしを見下ろす琉夏くんが映る。

 風にキラキラ光る綺麗な髪をなびかせて、王子様みたいに優しく笑う琉夏くん。
 ああなんて格好よくて素敵なんだろうと素直に思うのに

 それなのに。

 彼の口から紡ぎされた言葉が悪戯して?だなんて…、アナタがそんな特殊な趣味をお持ちだなんて知らなかったよ、わたし。

「……待て。あのさ、言っとくけどオマエ限定だから」  
「えっ!」

 一言も口に出していないのに、突然の鋭い突っ込みと共にジロリと睨まれて
わたしはさっきとはまた別の寒気を感じてぶるっと体を震わせる。

 な、なんで。どうして考えてたことがバレちゃったんだろう?
 ひょっとして琉夏くんって、特殊な趣味と共に特殊能力まで持ってたの?

「俺、 美奈子のことなら顔を見ただけで分かるよ?」
「そ、そうなの!?」
 
 だってオマエのヒーローだからね?なんて言って、格好良いでしょ?と綺麗なウィンクを投げてきた琉夏くんに
なんだか妙に照れてしまってわたしは慌てて下を向く。

 格好いい。うん、確かに格好いい。
 いつもだったら顔、真っ赤になってたと思うよ。
 ううん、顔だけじゃなくてきっと耳も手も足も全身真っ赤になってたんじゃないかな。

 だってさ

 オマエ限定だから。
 オマエのヒーローだからね。

 琉夏くんにそんなことを言われて嬉しくない子はいないもん。
 わたしだってね、嬉しいの。本当、凄く凄く嬉しいんだけど…。

「それでさ、悪戯しちゃう?それともされちゃう?」
「うっ……」

 喜びを噛み締める暇も与えてもらえないまま、俯いたわたしの目線の先に究極の選択を迫りながらじりじり近づいてくる彼の足が見えるから
わたしは捕まらないように少しでも琉夏くんから離れなきゃと、慌てて後ろに一歩足を伸ばした。

 一度でも捕まったら逃げられない。拒否権なんて勿論…

「あの、ちなみにどっちも無し。はアリで…」
「ん、無し」
「やっぱり……」

 覚悟はしていたけれど、はっきりとそう言われるとやっぱり焦るというか困惑するというか。
 このままどちらも選択せずに隙をついて逃げ出す、って手もあるんだろうけど
それをしちゃったら更に凄いことされそうな気もする…というかされちゃうのは明らかで。

 あの日、今のわたしと同じように琉夏くんから究極の選択を迫られたコウくんも
理不尽な要求にキレてそれから、どちらも選ばず力ずくで琉夏くんを引き剥がして逃走したんだけど
そのあと口では説明するのも憚れるような酷い目にあってた。

 って、ハァ…なんでこんな時に余計なこと思い出すかな。

 余計に焦ってしまうから、こんな時にそんなことを思い出しちゃダメだと自分に何度も言い聞かせてみるけれど
でもそうすればする程、頭の中をあの出来事が勝手に頭の中を駆け巡って…

(無理ムリ、コウくんみたいに朝起きたら両生類や爬虫類と添い寝してました。なんて絶対ムリ~!)
 
「 美奈子?」
「え?あっ…わわっ」

 コウくんの身に起きた数々の悲惨な出来事全てを思い出し、身震いしたところで
気がつけばいつの間にかわたしと琉夏くんとの距離が、さっきとは比べ物にならないぐらい縮まっていることに気がついた。
 
 他のこと考えてたでしょ?余裕だね。と意地悪な瞳で笑う琉夏くんが憎らしくて
抵抗するつもりで頬を膨らませ思いっきり口を尖らせてみる。

 けれどどうやらそれは全く逆効果だったようで、益々嬉しそうに目を細めた彼に
タコみたいだ、可愛い。と全く褒め言葉になってないような台詞を吐かれ
同時に両手でガッチリ顔を挟まれて、わたしは全く身動きがとれなくなってしまった。
 
 お互いの鼻がぶつかりそうになるぐらい近づいた琉夏くんと目があって「どっち?」と囁かれる。

 瞳なんかもう近づきすぎてぼんやり見えちゃうし
 琉夏くんが息をする度、吐息がわたしの肌を撫でるみたいにさわさわとあたって鳥肌が立ちそう。

 オマケにこんなに優しい声で意地悪を言われて…

 ああもうなんだこれ、こんな酷い誘惑があってたまるか。って思う

「これじゃぁもう、悪戯されてるのと同じだよ」
「あれ、そう?」
「そうだよ」

 酷く嬉しそうな彼に、悪戯なんて軽く通り越してこれは拷問だと思うんですけど?とじろっと睨んでみれば
何を感じたのか、琉夏くんは一瞬驚いたように目をまん丸にした後、一気に細めてニッコリ微笑んだ。

「それはそれは、光栄です。ジュリエット」
「なんでそうなるの。それにそんな台詞はありませんことよ?ロミオ」
「そうであったかな?」
「そうでございます。って、キャラ変わってるし」 
「…ぷっ」
「…ふふっ」

 打ち合わせしたわけでもないのに、お互いほぼ同時に吹き出して
途端に、さっきまでここにあったハズの緊張と甘い空気が一気に散らばってゆく。

 それを、ほんのちょっぴり勿体ない。と思いつつも、これで良かったんだよって心の中で頷いた。

 だって、こんなのやっぱり理不尽だもの。
 
 あ、でもそれは悪戯するかされるかってことに対してではなく

 どうせ選ばなきゃならないんだったら言わされるんじゃなくて自分の意思で選びたい。
 だってさ、自分ばっかりが動揺させられてるってなんだか癪だし。

「よし、決めた。思いついたよ、琉夏くん」

 悪戯します、わたし。

 お互いに思う存分笑いあって、相変わらず近い距離にある琉夏くんのおでこに自分のおでこをくっつけて
ニッコリ笑いながらこう告げる。

「へぇ、じゃぁドウゾ」
「はい、それでは遠慮なく」
 
 何されるんだろ、楽しみだなぁ。なんて笑う余裕の琉夏くんにちょっぴりムッとしながら
負けるものかとわたしは下ろしていた両手を持ち上げ、彼の首へと巻きつけた。

「ね、目を閉じて?」
「え?閉じるんだ。エッチめ」
「うるさい。言われた通りにするの」
「は~い」
「あ、それと膝も曲げて?」
「膝?どれくらい?」
「わたしの背と同じ高さになるまで」
「りょーかい」

 わたしに言われた通り、瞼をぴったりくっつけて膝を曲げる琉夏くんを確認してふふっと笑う。
 琉夏くん、悪戯される方なのに、なんでそんなに嬉しそうなんだろ。
 まるでプレゼントを待つ子供みたいな無邪気な笑顔。
 そんな彼の顔を見つめながら、わたしはときめきと緊張に胸を弾ませ、彼の耳元に唇を近づける。

 わたしが囁く言葉を聞いて、琉夏くんどんな顔をするだろう。
 びっくりするかな?それとも困っちゃうかな?

 ダメだった時は悪戯だよって誤魔化そう、うん。
 
 なんてちょっぴり後ろ向きな言い訳も用意しつつ、わたしは彼に悪戯をしかけるべく
彼の耳に最初の言葉を囁きかける。

「あのね、琉夏くん…」
 
 びっくりしても、困っても、ダメだったとしても
 琉夏くん、最後には笑ってくれると嬉しいな。
 
 





2010.11.01 『王子様なイタズラ天使』遅れちゃったけどトリックオアトリート! アキラ28号

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クリスマスの子羊さん


 赤鼻のトナカイ
 サンタクロース
 クリスマスツリー
 赤いマフラーの雪だるま
 お星さま、と…
 それからそれから。

 今日はクリスマス。3人でパーティをしようってことでわたしたちはwest beachに集まって
とてもささやかだけどクリスマスのお祝いをした。

 クリスマスケーキは金銭的な問題その他諸々の理由で買えなくて、代わりにホットケーキを重ねたものになっちゃったし
 おうちの中は隙間風がびゅうびゅう入ってくるから寒くて震えちゃったけど
 コウくんルカくんと一緒に過ごすクリスマスは、凄く凄く楽しかった。
 
 ここ最近、バイトが忙しかったらしいコウくんが、パーティも一段落ってところで気を抜いてついウッカリ寝てしまうまでは。だけど
 



 クリスマスの子羊さん



「あんの…バカルカ」
「まぁまぁ」

 もはやコレは芸術なんじゃないか?って思えるぐらいに細かくびっちりとクリスマスっぽい絵を顔に描かれたコウくんが
盛大なため息を吐き出して散らかったテーブルを片付けている。
 騒ぎを起こした琉夏くんはとっくの昔に逃走して、わたしはさすが琉夏くん逃げ足早いなぁと関心しながら
ぶつぶつ文句を言って片付け続けるコウくんを大変だったねって手伝って、ついさっき起きた出来事を思い出しふふふっと笑った。

 実はわたし、うたた寝しているコウくんの顔に琉夏くんが芸術的な落書きを施していることに気がついていたけど黙ってた。
 注意すべき?って少し考えて、バレたらわたしも一緒になって怒られるのかな?とも思ったけど
怖さよりも自分の顔を見たコウくんがどんな反応をするのか?って好奇心の方が強くて起こせなかった。

 だってさ「共犯だよ」って悪戯っ子の目をして笑う琉夏くんには逆らえないし
「ムスッとした顔よりは面白いでしょ」という言葉に、わたしも「確かに」って思っちゃったんだもん。

「オイ、何笑ってんだ。オマエ」
「な、なんでも?あっ」

 楽しそうにコウくんの顔に落書きをしてゆく琉夏くんと、されているコウくんの姿を思い出して笑っていたら
疑ってるぞ?って感じのジットリ目でこっちを見ていたコウくんから、頭を肘で軽く小突かれてしまった。

「痛いよもうっ!」
「嘘つけ、バーカ」

 本当は大して痛くなかったけど、思いっきり口を尖らせて拗ねて見せたら
なんて顔してんだってコウくんに笑われて、少し意地っ張りなわたしはムッとなったけれど
何故か気持ちとは反対に口の端は勝手に上がってしまい、慌てたわたしはそれを見せないように両手で顔を押さえ
誤魔化すように「知らないっ」とそっぽを向いた。

 意地悪なことを言われてもされても、悔しいことに最後にわたしは必ずコウくんの笑顔に負けてしまう。
 何故なら彼がわたしに向けてくれる笑顔は優しくて、わたしだけが知ってる顔だからだ。

「あー、悪ぃ、今日」
「ん?」

 どうだ、羨ましいでしょ?なんて、ほんの少し知らない誰かに対して優越感に浸ったところでいきなりコウくんに謝られ
びっくりしたわたしは思わず彼を見上げて首を傾げる。

 今日は特に失敗したことも心配することも無かった、なのに何でコウくんはわたしに謝ってるんだろ?

 全く意味が分からないよ?という気持ちで彼を見つめるとわたしの思ってることに気付いてくれたのかコウくんが
凄く言い辛そうな顔で「クリスマスイルミネーション」と呟いた。

「ああっ!それ?」
「行きたかったんだろ?オマエ」
「うん、まぁ確かに行きたかったけど。でもね、いいんだよ、今日スッゴク楽しかったから。
 イベントはさ、来年もきっとあるだろうし。あ、そうだ、来年!来年行こうよコウくんっ」

 本当は結構行きたいな、と思ってた。けどここで3人、クリスマスを過ごして楽しかったのもホントだから
 全然気にしなくていいんだよ?ってコウくんを見上げてニッコリ笑ってみせる。
 すると何故だかコウくんはびっくりしたような顔でわたしを見て、それから複雑そうな顔で「ああ」って頷いた。

 はてさて、わたしはまた何かおかしなことを言ったのだろうか?

 そう思って自分の言ったことを思い出してみるけれど、どこにもおかしなところは思い当たらなくて。
 しかもなんだかコウくん顔が赤いような気がするんだけど…うーん、これは気のせいかな?

「さて、後はこれを片付けたら終わりだね」
「ああ、悪ぃ。助かった」

 洗いもんは琉夏のバカに任しておけばいいからよって言うコウくんに素直に頷いて、わたしは休憩する為にカウンター前のイスに座り
「お疲れ」って言葉と一緒に差し出されたコーヒーを受け取った。

 きっと、このコーヒーを飲み終えたらコウくんに「送ってくから用意しろ」って言われるんだろうな。
 時間ももう遅い、だから帰るのは当たり前なんだけど、考えちゃうとどうしても寂しくなってしまう。
 
 本音はもっと一緒にコウくんといたい。

 けどそんなこと言えるわけなくて、わたしは心の中の気持ちを押し込めるようにマグカップに口をつけて熱いコーヒーを一口啜った。

「……」
「……」

 不自然に空いた間。
 それが何故だか凄く寂しくて、わたしは慌てて周りに目を凝らす。

「あれ?」
「ん?どうした」
「ほら、これ」
「……ああ」

 すると目線の先、長いソファの端にちょこんと座っている小さな赤い箱を見つけて
 あ、そういえば琉夏くんが逃走する前ここに置いて行ったっけ。
 そんなことをふっと思い出してわたしは小箱を持ち上げると、コウくんにそれを手渡した。
 
「これなぁ、どうせロクなもんじゃねぇだろ」
「そうかな?」

 琉夏のことだから悪戯目的なんだろうよって苦い顔してコウくんが乱暴に箱の包装紙を剥がしだす。
 表にはマジックの太い方ででかでかと「プレゼントです★琉夏より」なんて書いてあって、確かに見た目は凄く怪しい。
 でも折角の琉夏くんからのプレゼントなんだからもうちょっと優しく箱を開けたらいいのにな。
 なんて思うけど、きっとそう言ってみたところでめんどくせぇ、なんて返事が返ってくるんだろう。 

「ねぇねぇ、中に何が入ってるの?」
「ああ、ちょっと待……げっ」
「げ?」
「……」

 箱の中を覗いた途端、声を詰まらせて絶句するコウくんを不思議に思って
「なに?やっぱり悪戯だった?」と言いながら箱の中身を覗こうとコウくんの方へ身を乗り出す。
 
「バ、バカッ!オマエは見んなっ!!」
「はっ?いきなりなに?酷いっ!」

 するといきなり大きな手の平に視界を遮られ、耳には焦ったコウくんの声が聞こえてきた。
 グイグイと遠ざけるように押してくる彼の手のひらに少しムッとして、わたしは両手でコウくんの腕を掴んで引き剥がす。
 
「うわっ!バカっ!!」

 と、突然の抵抗に驚いたのかバランスを崩したコウくんの、その隙を狙ってわたしは素早く彼の手元にあった小箱を掠め取り
それを抱えたまま勢いよくイスから飛び降りると、コウくんの手の届かない位置まで急いで逃げ出した。
 
 ハァハァ…。

 咄嗟のダッシュと緊張にちょっとだけ息を切らし、けれどその間もコウくんとの間合いを計るため意識を集中して
威嚇するみたいに彼を見つめながら箱の中へ自分の手を突っ込む。

 手の感覚だけを頼りに中身をゴソゴソかき回す。
 するとと手にちくちくと何かが刺さる感触があって、わたしは「ん?」と首を傾げた。

 中にはどうやら個別にパックしてあるものらしいものが幾つか入っていて、わたしの手を刺しているのはどうやらその側面部分。
 で、その一個一個が何が入ってるの?って思うぐらいに凄く薄くて、でもペラペラしているわけでもなく
なんというか、真ん中あたりに違和感というか特徴のある形の何かが入っているような感触があって……

(はて、これはなんだろう?)

 触っただけじゃ中身が何なのか見当も付かなかったわたしは、目線をコウくんに向けたまま
箱の中の物を一つ掴むと、彼に見せるようにそれを前に突き出した。 

「コウくんこれっ……うわぁぁぁ!!」
「ああ、まあ……ああ」

 自分の手にある物体を直接目で確認して絶句する。 
 目の前にいるコウくんは何といったらいいのか分からないって顔をしていて…頭が真っ白になったわたしは
どうしようもなくただ金魚みたいに口をパクパク動かした。

「…………」
「…………」

 一瞬にしてさっきとはまた違う気まずさに固まる空気。
 
 うう、沈黙が痛い。

 て、手に持ってるコレ、放り投げるわけにもいかないしどうしたらいいんだろ。
 流石に何事も無かったみたいに箱にしまって笑うわけにもいかないし……。
 というか一体なんだって琉夏くんってばこんなものをプレゼントに─

「…オイッ」
「へっ!?えっ!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「わっバカッ、そんなデケェ声だしてんじゃねぇ」

 気が付けばいつの間にかコウくんがすぐ傍まで来ていて、近さに驚いて思わず叫び声をあげてしまったわたしは
「ビックリするだろうが」と非難めいた声でコウくんに怒られ、大きな手で口を押さえられてしまった。

「ふ、ふみまふぇんでした」

 彼の手の中で、もごもごと口を動かして謝ってみるけど、普通は驚くよね?って思う。
 だっていきなりの至近距離だしこのタイミングなんだもん。

 気持ちを訴えるようにコウくんを見上げてみる。けれど分かってないのかお構いなしなのか
コウくんはいつものぎゅぎゅっと眉間にシワを寄せた不機嫌そうな顔でわたしを睨むと口から手を離し、ハァと大きな息を吐き出した。

「……ホラよ」
「ん?何コレ」
「琉夏からの手紙だ」
「へ?あ、うん」

 箱の中に入ってたんだと、ムスっとした顔のままわたしの目の前でひらひらと小さな紙を揺らすコウくんの手から
引っ張るように紙を受け取って、書かれてある文字を読んでみる。

(なになに…?

『コウが怖いので今夜は帰りません。 美奈子ちゃん、コウをよろしく。
二人で仲良くイチャイチャして機嫌直しておいて♪
可愛い弟琉夏より。』

ハァ!?って!なんでそうなるのーーーーー!!!)

 驚き過ぎて声がでない、というか何を言えばいいのかさえさっぱり分からない。
 一体琉夏くんはわたしにどうしろと……まさか。
 いやいやいや、ないないない。
 いくら今日がクリスマスだからってそりゃないでしょ?ないようん。
 確かにわたし、コウくんともっと一緒にいたいとは思ったけどさ
考えていたのはもっとこう、フンワリとしたプラトニックな感じでって意味で…いや、だからって何も無いってのもヤダけど。
 そ、そりゃね?キ、キスぐらいはあったらいいなって確かに思ったよ?思ったけどでもいきなりこんな激しいのじゃなくて…って

 激しい?激しいって何?激しいって!ヤダもうわたしってばなに考えてんのっ!

(琉夏くんのばかぁ~)

「で、どうするよ」
「ど、どうするってそんなっ!!」

 混乱するわたしを見下ろして、ニヤリ。と笑ったコウくんの顔に頬を引き攣らせてわたしは一歩後ずさる。

 琉夏くんの手紙、そして箱の中とわたしの手の中にある琉夏くんのプレゼント。
 これは、どう考えたって辿り着く答えは一つしか無いけれど……

「… 美奈子」

 掠れたような声でコウくんに名前を呼ばれてビクッと身体が震える。
 恐る恐る見上げた彼の目は何とも言えない色をしていて、わたしは得体の知れない
というより分かっているんだろうけど認めたくない危機感に、思わず目線をあちこちにさ迷わせながら
コウくんから逃げるように、更に足を後ろに一歩踏み出した。
 
「さ、さぁっ!無事片付けも終わったことだし!」

 わざと明るく大きな声を出して、顔は…スッカリ引き攣ってしまっているけどそれでも何とか笑顔を作って
わたしはじりじりと後ろへ下がりながらコウくんを見上げる。

「ね?もうね、遅いからね、か、帰ろうかなぁって……えへ」

 来年もいい子でいます。だからこの狼から助けてくださいサンタさん…。

 そんなわたしの心の中の願いも虚しく、半歩下がれば半歩分、一歩下がれば一歩分コウくんが迫ってくる。
 それを何度か繰り返してゆくうちに、気が付けばわたしは自分自身で後ろの壁に身体を押し付けていたことに気が付いた。

 背後は壁、後がない。ということはこれは……

「ま、待って!話せば分かる!!」
「オマエ、今日は泊まりな」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇー!!」

 何とも言えない笑顔でコウくんに囁かれ、慌ててる間に抱えあげられてわたしは逃げるように手足をばたつかせる。

 一緒にいられるのは嬉しいけどいきなりすぎるよ!

そう言ってコウくんの身体を叩いてみるけど、ニヤッと笑うコウくんには全く効かないみたいでビクともしない。

「ま、無駄な抵抗はしないこった」
「ううっ……」

 正直、お姫様だっこは魅力的だし嬉しい。けどこれから先、起こることを考えたら無邪気に喜べない。
 だってきっと、すぐにお姫様扱いされなくなるのは目に見えてるし。
 
「たっぷり可愛がってやるよ、
美奈子。なんせクリスマスだからな」
「……いえ、手加減してください」

 関係ないよ、コウくんの可愛がりとクリスマスは関係ないよ。
 それに、コウくんの可愛がり方はわたしが考えてるのと全然違うんだよ。
 
 そう言いたくなる気持ちをぐっと堪えてわたしはじっとコウくんを見つめる。
 どうせ頑張って言ってみたところで目の前の狼が喜ぶだけだから。

(うーん。でもまぁ、これもアリ…かな?)

 クリスマスだもん、ちょっと考えていたこととは違うけど一緒にいられるんだから良かったってことにしよう。
 どうせ逃げられないのならと心の中で覚悟を決めて、わたしは逞しい彼の首に自分の腕を絡ませた。

「あ、でもその前に顔は洗おうよ」
「あぁ?そうだったな。じゃぁオマエをベッドに運んだら洗ってくるべえ」

 顔に描かれてある落書きの一つを突付いて呟くと、思い出したような顔でコウくんが頷いた。
 ふぅん、わたしを運ぶのが最優先なんだ。せっかちなのかのんびりやなのか良く分からないコウくんの言葉がおかしくて
思わず笑ってしまう。

「何笑ってんだ?別に俺はこのままでもいいけどよ。オマエ変わった趣味してんな」
「むっ、そんなのないもん。ばか」
「てめぇ、上等だコラ」

 後で覚えてろよ。そう言って階段を登る速度を速めたコウくんに抵抗するようにわたしは足をばたつかせる。
 あ~れ~やめてぇ~なんて言いながら笑ってコウくんにぎゅっと抱きついて、あ、なんだか幸せかも?と思っていたら
わたしの顔を見て何を思ったのか、コウくんは意地悪そうな顔でわたしを見つめて言った。

「琉夏のプレゼント、全部使い終わるまで寝かさねぇから覚悟しとけよ?」

 ……。
 
 わたし、明日無事に起きられるのかな。

 
 








クリスマスの予定は特にありません。というかコレ書いてましたよメリーだね
2010.12.25 アキラ28号

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